白内障

2025.06.05

白内障手術「遠くに合わせる」と後悔することになるのか

1.「遠くに合わせる」とは?

1-1. 白内障手術で選ぶ「ピントの位置」

白内障手術では、濁った水晶体(自然のレンズ)を取り外し、そのかわりに人工の眼内レンズ(IOL:Intraocular Lens)を入れます。このとき、挿入するレンズは「ピントをどこに合わせるか」を事前に選びます。大きく分けると:

  • 遠くピント重視(遠方焦点)
    電車の風景やテレビ、車のナンバープレートなど、遠くがクリアに見えるように設定します。
  • 近くピント重視(近方焦点)
    本を読んだりスマホを見るような近距離にピントを合わせます。
  • 中間距離(パソコンモニターなど)優先
    1~2メートルくらい先のモニター仕事やキッチン作業をしやすいように調整することもあります。
  • 多焦点レンズ(遠・中・近いずれもある程度見える)
    近く・遠く・その中間…といった複数の距離にピントを分散させる特殊なレンズです。

一般的には「遠くピント」の単焦点レンズを選ぶ方が多いため、「なるべく裸眼で遠くをよく見えるように」という希望を叶えやすくなります。そのぶん、近くを見るときには老眼鏡や読書メガネを別に必要とするケースがほとんどです。

2. 「遠くに合わせて後悔している」理由

遠く重視にした結果、手術後にこんな不便を感じて「後悔している」という声をよく聞きます。主な理由は次のとおりです。

  1. 近く(読書やスマホ)が見えにくい
    遠く重視だと、手術後は本やスマホを読むときに焦点が合わず、ぼやけてしまいます。そのため毎回、手元用のメガネ(老眼鏡)を持ち歩かないといけないのが面倒になります。
  2. 「メガネ生活」を想像より負担に感じる
    手術前には「裸眼で遠くはバッチリ見えるから、近くは老眼鏡でいいかな」と考えていたものの、実際には老眼鏡をかけたり外したりが手間で、日常生活でストレスを感じるケースがあります。たとえば、料理中にレシピ本を見る、仕事中にパソコンと書類を使い分ける、など近・中距離の切り替えが多い方ほど不便に感じやすいです。
  3. 多焦点レンズを選ばなかった後悔
    手術費用を抑えるために単焦点レンズ(遠方焦点のみ)を選び、多焦点レンズを選ばなかったことを後悔する場合もあります。多焦点レンズは費用が高めですが、術後に近くもある程度見えるメリットがあります。その点を「選択しなかった自分の判断ミス」と感じる方もいます。

3. どうして「遠く重視」の選択をする人が多いのか?

では、なぜ「遠くをバッチリに設定」する人がそもそも多いのでしょうか。メリットと背景を整理します。

3-1. 遠方視力が一番安定しやすい

  • 単焦点レンズの基本性能
    単焦点レンズは、あらかじめ遠か近かのどちらかにピントを固定する設計です。費用がリーズナブルで、遠くに合わせた場合の視力回復効果がもっとも確実かつ安定しやすいという特徴があります。
  • 失敗リスクが少ない
    近くに合わせる場合、ピントが合ったと感じる距離が人によって少しずつズレることがあります。遠くに合わせておけば、運転免許更新など法律で定められた視力基準をクリアしやすいので、視力が落ち着かないリスクを避けられます。

3-2. 「遠くが見えれば不自由が少ない」イメージ

  • 外出や運転の安全性
    遠くがクリアに見えることで、交通事故や転倒リスクの低減につながりやすいとされます。特に高齢になると「段差が見えづらい」「車の見落とし」が心配されるため、遠く優先のほうが安心感が大きいケースがあります。
  • 家族や周囲の勧め
    ご家族や医師から「今はまだ近くはメガネでいいから、とにかく遠くを裸眼でよく見えるほうが便利だよ」とアドバイスを受け、遠く重視を選ぶ方も多いです。

4. 近くが見づらい場合にできること・対策

すでに「遠く重視」の単焦点レンズで手術を受けてしまい、近くが見づらくて困っている場合でも、いくつかの対策があります。以下の方法を検討してみてください。

4-1. 老眼鏡や遠近両用メガネを使う

  • 読書用の老眼鏡(リーディンググラス)
    一番シンプルな解決策は、近距離に合わせた老眼鏡を使うことです。100円ショップなどでも手軽に販売されていますが、自分の実際の度数に合わせた「処方箋付きの老眼鏡」や「遠近両用メガネ」を眼鏡店・眼科で作ると、より快適に見えます。
  • 遠近両用メガネ
    1本で遠く(手元数メートル)から近く(30~40センチくらい)まで段階的にピントが合わせやすいメガネです。ただし、レンズの下端・上端によって歪みを感じたり慣れるまでに時間がかかることがあります。最初は眼鏡店で「慣らし用レンズ」を試せるか相談してみましょう。

4.2. モノビジョン(片眼ずつ役割を分ける)

  • モノビジョンとは?
    もともと片方の目に「遠くピント」、もう片方の目に「近くピント」を合わせる方法です。もともと手術前に相談して決めるのが一般的ですが、術後に「近くの見え方を追加したい」と考えた場合も、片側だけを追加でレンズ交換してモノビジョンに近づける選択肢があります。
  • メリットとデメリット

    • メリット:裸眼で遠くと近くの両方をある程度カバーしやすくなる。
    • デメリット:左右の見え方の差が大きくなるため、立体視(距離感)に違和感を感じる場合があります。最初は「ふわふわ」した感じがすることがあり、慣れるまで1~2ヶ月程度かかることもあります。
4.2.1. 術後レンズ交換でモノビジョンを作る
  • 術後に他院や同院で片目だけ再手術(IOL交換)をして、もう片方の目に「近方焦点のレンズ」を入れ替える方法です。
  • ただし手術自体にリスクが伴いますし、費用も一度目の手術より高くなる可能性があります。眼内レンズの固定状況や角膜内皮の健康状態によっては、再手術が難しい場合もあるため、眼科医とよく相談してください。

5. どうしてもメガネやモノビジョンに抵抗がある場合の選択肢

近くが見えないストレスが大きく、「どうしても裸眼で近くを見えるようにしたい」という場合には、次のような選択肢を考えることもできます。

5-1. レーシックやICL(小径眼内レンズ)併用

  • レーシック(角膜レーザー矯正)
    白内障手術で遠くを合わせた目に、さらに近くを合わせるためにレーシックで近視方向にわずかに矯正をかける方法です。術後の屈折矯正手術なので、一般的には手術後の炎症が落ち着いてから(3~6ヶ月後)が目安となります。すべてのクリニックで行っているわけではないため、対応可否は要確認です。
  • ICL(眼内コンタクトレンズ)併用
    ICLは角膜を削らずに目の中にレンズを入れる手術です。近方焦点を補うためにICLを追加挿入することで、モノビジョンや混合焦点をつくることができます。ただし高齢者であれば角膜の厚みや内皮細胞数が減っている場合が多く、適応外になるケースもありますので、慎重に検討します。

5-2. 多焦点レンズへの交換

  • 多焦点眼内レンズの特徴
    一つのレンズ内に「遠く」「中間」「近く」の焦点が分散しているため、遠くも近くも裸眼である程度見えるメリットがあります。しかし光を分散させる構造上、「夜間にハロー・グレア(光がにじんで見える現象)が起きやすい」「薄暗い場所でははっきり見えにくい」というデメリットもあります。
  • 術後交換について
    すでに単焦点レンズを入れてしまった場合でも、数ヶ月以内であればIOL(眼内レンズ)の交換が可能なことがあります。ただし、交換するタイミングが遅れるほどレンズの周りに膜(カプセル)が張ってしまい、剥がすのが大変になり合併症リスクが上がるため、できれば「術後3~6ヶ月以内」が目安となります。高齢者の方はカプセル(後嚢)がもろくなりやすいので、再手術は慎重な判断が必要です。

6. “遠く重視” を選ぶときに注意すべきポイント

遠くに合わせる施術を考えている方、これから手術を受ける予定の方は、次のポイントを事前に押さえておくと「後悔」を減らせます。

  1. 自分の生活スタイルを振り返る

    • 日常で「近くを見る作業」がどれくらい多いかをチェックしましょう(読書、スマホ、料理のレシピチェック、趣味で細かい作業など)。毎日何時間も近くのものを見たい人は、「遠くだけのピント」にすると不便度が大きくなります。
  2. 費用面だけで判断しない

    • 単焦点レンズ+メガネで済ませる選択は費用が抑えられますが、老眼鏡や遠近両用メガネの購入コスト、日々の「かけたり外したり」の負担も含めて総合的に考えましょう。
  3. 「術後のメガネは必須」と割り切れるかどうか

    • 手術後は遠くを見るとき用のメガネが不要になりますが、近く用には必ずメガネが必要です。「メガネを使うのは全く嫌」という方や、「メガネをかけたり外したりが億劫」という方には、不向きかもしれません。
  4. 医師とじっくり相談し、シミュレーションを受ける

    • 多くの施設では、術前に「術後のイメージシミュレーター」を使った説明を行っています。遠く重視・近く重視・多焦点など、実際に目がどのくらい見えるかを体験できる場合もあるので、納得いくまでイメージを確かめましょう。特に、左右の組み合わせ(モノビジョン含む)は賛否あるため、自分に合うバランスを探すことが大切です。

7. 「遠く重視で後悔」のまとめと今後のアドバイス

  1. 後悔の多くは「近くが見づらい」ことが原因
    遠くにピントを合わせると、術後の近見(読書、スマホ、手元作業)はメガネが必須になります。その負担が想像以上に大きく、「こんなに手元が見づらいとは思わなかった」と感じやすいのです。
  2. まずは老眼鏡や遠近両用メガネをしっかり活用
    日用品レベルの安価な老眼鏡は長時間の使用には向きません。信頼できる眼鏡店や眼科で自分の度数に合わせたものを作り、手元の作業が快適になるように調整しましょう。
  3. モノビジョン化や再手術の可能性について相談
    もし「どうしても裸眼で近くを見たい」という強い希望があれば、眼科でモノビジョンの可否やIOL交換、レーシック併用などの選択肢を検討できます。ただし、高齢者の場合は再手術リスクや角膜の状態なども考慮しながら、最終的な判断は慎重に行いましょう。
  4. 次の手術を受ける前に「なぜ後悔しているのか」を整理

    • 「ある程度はメガネに頼るのがイヤ」なのか
    • 「多焦点レンズにすれば手元も裸眼で見えたはず」だと悔やんでいるのか
    • 「左右バランスを変えるモノビジョンには興味がある」など
      まず自分の感情や生活上の不満点を明らかにすることで、次に何を優先すべきか(メガネでいいのか、再手術を検討すべきか)がはっきりします。

最後に

白内障手術は、近年とても安全で効果の高い手術ですが、「どこにピントを合わせるか」という選択を誤ると、術後の満足度に大きく影響します。遠く重視の単焦点レンズを選んだあとに近くの不便を感じ、「後悔している」と思ったときでも、早めに専門医に相談することで、多くの場合は解決策が見つかります。

  • まずは最寄りの眼科クリニックで「術後の見え方の不満」を正直に伝えてください。
  • 医師から「まずはメガネ調整でどこまで改善できるか」「再手術や併用治療が可能か」を詳しく説明してもらいましょう。
  • 自分の生活スタイルやコスト、リスクを踏まえたうえで、納得のいく次のステップを一緒に考えましょう。

後悔を抱えたまま放置せず、できる対策を早めに取ることで、再び快適な視生活を取り戻せるはずです。ぜひご参考にしてみてください。