白内障の手術には主に以下の方法があります。それぞれの手術方法にはメリットとデメリットがあり、患者さんの状態や希望に応じて選択されます。
1.超音波乳化吸引術(PEA: Phacoemulsification)
方法:
- 超音波乳化吸引術は、白内障の手術で世界的に最も広く行われている方法です。
水晶体は、直径9mm、厚さ4mmぐらいの凸レンズのようなカタチをしています。濁って固くなった水晶体を取り除くのに、超音波を用いることで、小さな切開創での手術が可能になりました。
小さな切開(2-3mm)を作り、超音波で硬くなった白内障の水晶体を砕いて吸い出し、人工レンズ(眼内レンズ)を挿入します。
メリット:
- 切開が小さい:小切開で眼への負担が少ないです。
- 回復が早い:手術時間は5~10分程度と短く、傷口も小さいため、術後数日で日常生活に復帰できることが多いです。
- 術後の乱視が少ない:小切開で角膜に影響が少なく、術後に乱視が発生するリスクが低いです。
- 日帰り手術が可能:手術は局所麻酔で行うため、入院せずに日帰りで済む場合が多いです。
- 視力改善の成功率が高い:現代の白内障手術の中で最も成功率が高く、安全性が確立された方法です。視力の回復効果が高いです。
- 近視や遠視の矯正効果:眼内レンズは視力矯正の役割も果たし、近視や遠視、乱視の矯正が可能です。近年では、多焦点レンズや乱視矯正機能付きレンズなど、患者のニーズに応じた選択肢が増えています。
- 合併症が少ない:切開創が小さく手術時間が短いため、他の手術方法に比べ、術後の炎症や眼内のトラブルが少ない傾向があります。
デメリット:
- 特殊機器が必要:高価な機器が必要であり、設備が整った施設でのみ行えます。
当院では、日本Alcon社のCENTURION® Vision System with ACTIVE SENTRY®を使用しています。 - 技術的な習熟が必要:高度な技術を要するため、術者の経験と技量が結果に大きく影響します。
- 白内障が硬すぎる場合は難しい:白内障が非常に進行している(核が硬い)場合、超音波で砕くのが難しくなることがあります。この場合、他の方法が選ばれることがあります。
- 合併症の可能性:手術は安全性が高いものの、稀に以下の合併症が起こることがあります。
・水晶体後嚢の破損:水晶体の袋が破れ、眼内レンズ挿入が困難になることがあります。
・眼内炎:2000人に1人の確率で手術後に感染が起きることがあります。
・網膜剥離:稀に発生することがあります。
- コストが高い場合がある:自費診療で高度な機器や人工レンズを使用する場合は、費用が高くなることがあります。保険の適用状況や選択するレンズの種類(単焦点レンズ、多焦点レンズなど)によって異なります。
2.水晶体囊外摘出術(ECCE: Extracapsular Cataract Extraction)
方法:
大きな切開(8~10mm)を作り、水晶体囊は温存したまま、水晶体の核を丸ごと塊で取り出し、人工レンズを挿入します。
メリット:
- 硬い白内障に対応可能:超音波乳化吸引術が難しいケースでも実施できます。
- シンプルな手術:超音波装置がなくても可能です。
デメリット:
- 切開が大きい:10mm以上の切開が必要で、縫合も行うため回復が遅くなります。
- 手術時間が長い:手術は局所麻酔で行い、入院せずに日帰りで済む場合が多いです。ただし手術時間は、創の縫合など手順が多く、30分~1時間程度となります。
- 術後乱視のリスク:切開が大きい分、術後の視力回復に時間がかかる場合があります。
3.水晶体囊内摘出術(ICCE: Intracapsular Cataract Extraction)
方法:
- 大きな切開(10~12mm)を作り、水晶体を周囲の囊(袋)ごと摘出します。
昔の白内障手術法で、現在は特定の条件下でのみ使用されます。
- マルファン症候群や外傷性白内障で、チン小帯が破損している場合。
- 他の方法が技術的に困難な場合。
- 手術が実施される地域や設備が限定されている場合(発展途上国など)。
メリット:
- 重度の亜脱臼に対応可能:水晶体が完全にずれている場合でも安全に摘出できます。
- 簡便な手術手技:複雑な操作を避けることができます。
デメリット:
- 大きな切開が必要:10mm以上の切開が必要なため、術後の回復に時間がかかります。
- 眼内レンズ固定が難しい:チン小帯が壊れているため、通常の方法で眼内レンズを固定できません。強膜固定や無水晶体眼の矯正が必要になることがあります。
- 手術時間が長い:手術は局所麻酔で行い、入院せずに日帰りで済む場合が多いです。ただし手術時間は、創の縫合など手順が多く、30分~1時間程度かかります。
- 合併症リスク:網膜剥離や眼内炎のリスクが高くなります。
4.レーザー白内障手術(FLACS:Femtosecond Laser-Assisted Cataract Surgery)
方法:
フェムト秒レーザーという特殊なレーザー技術を使い、精密で安全な手術を目指す方法です。主に自由診療で行われ、特定の条件に合った患者に推奨されることが多いです。
手術の流れ(レーザーを使った部分)
- 角膜切開の作成
フェムト秒レーザーで角膜に小さな切開を作成します。この切開は非常に正確で、一貫した形状を保てます。 - 水晶体前嚢の切開(キャプスロトミー)
水晶体を包む薄い膜(前嚢)を円形に切り取ります。手作業よりも正確で、眼内レンズの安定性が向上します。 - 水晶体核の分割
フェムト秒レーザーで濁った水晶体の核を小さく砕きます。これにより、超音波乳化吸引術での超音波エネルギーを抑え、眼に優しい手術が可能になります。 - 人工レンズ(眼内レンズ, IOL)の挿入
この部分は従来の手術と同様に手作業で行われます。
メリット
- 精密性が高い:レーザーによる切開や分割は非常に正確で、個々の眼球の形状に合わせた調整が可能です。
- 眼に優しい:水晶体をレーザーで砕くため、超音波の使用量が減り、眼内組織へのダメージを最小限に抑えます。
- 乱視矯正が可能:角膜切開を調整することで、軽度の乱視を矯正できます。
- 安定した術後結果:正確な前嚢切開により、眼内レンズが正しい位置に固定されやすくなります。
- 合併症リスクの軽減:レーザーによる切開は一貫性があり、手作業による不正確さを減らすため、術後の合併症リスクが低くなる場合があります。
デメリット
- 費用が高い:自由診療である場合が多く、費用は従来の手術に比べて高額(片眼で40~80万円程度)。
- 適応が限られる:特定の白内障患者に適しており、白内障が高度に進行している場合や眼の状態によっては従来の手術が選ばれることがあります。
- 設備と経験が必要:高度な機器が必要であり、術者にも専門的なトレーニングが求められます。
- 追加の機器操作が必要:レーザー装置を使うため、手術時間が長くなります。
適応患者
- 軽度~中等度の白内障の方。
- 術後の視力矯正を高精度で行いたい方。
- 軽度の乱視がある方で、メガネの依存を減らしたい方。
- 眼内レンズの位置を安定させ、長期的に良い視力を得たい方。
従来の手術との比較
項目 | 従来の手術 | レーザー白内障手術 |
---|---|---|
切開方法 | 手作業 | レーザー |
精密性 | 個々の術者の技術に依存 | 高精度かつ一貫性がある |
超音波使用量 | 多い | 少ない |
乱視矯正 | 限定的 | 軽度乱視まで対応可能 |
費用 | 保険適用で比較的安価 | 自費診療で高額 |
レーザー白内障手術は、従来の方法に比べて精密で、患者への負担が軽減されることが特徴です。ただし、費用が高い点や適応条件が限られるため、選択肢として検討する場合には、医師とよく相談することが大切です。
ポイント:
高精度で術後の満足度が高い手術を希望する方には向いています。費用負担や、自分の白内障の進行度に適しているかを確認することが必要です。
どの方法を選ぶべきか?
一般的には超音波乳化吸引術が最も選ばれる方法ですが、患者さんの白内障の進行具合や全身状態、費用などを考慮して決定します。
主治医と相談し、自分に合った方法を選ぶことが大切です。