-
1. 後発白内障の発症の原因
- 後発白内障(再発性白内障、後白内障とも呼ばれます)は、白内障手術後に発生することがあります。
眼内レンズ(IOL)の後ろにある透明な膜(後嚢:こうのう)が曇ることによって視力が低下する現象です。
この症状は、白内障の手術後に視力が回復した後、しばらくしてから現れることが多いです。白内障の手術自体は成功していても、後嚢が存在する限り、全ての患者様に発症する可能性がある病気です。後発白内障が発生することで視力が再び低下することになります。
2. 発症のメカニズム
白内障手術で眼内レンズが挿入された後、目の後嚢という部分が残ります。これは、眼内レンズを支える膜の部分です。後嚢は非常に薄くて柔軟な構造をしており、通常は透明で視界に影響を与えません。しかし、手術後の時間が経つにつれて、後嚢に残っていた細胞や線維が増殖し、膜が曇ってしまいます。この膜の曇りが視力低下の原因となります。
引用:JSCR 日本白内障学会
後発白内障の発生は、眼内レンズが取り付けられた位置や個人差、眼の回復の仕方によって異なりますが、一般的には数ヶ月から数年後に発症します。
3. 後発白内障の症状と診断方法
症状
後発白内障の主な症状は視力の低下です。白内障手術を受けた後に視力が回復していた場合でも、突然視界がぼやける、霧がかかったような見え方を感じることがあります。これは、曇った後嚢が視界に影響を与えるためです。
具体的な症状は以下のように現れることがあります:
- 視力の低下
手術後に回復した視力が再び低下することがあります。視界がぼやける、焦点が合わない感じがする場合が多いです。 - 光のにじみやハロー現象
夜間に車のライトや街灯の周りに光のにじみやハロー(光の輪)が見えることがあります。この現象は、後嚢が曇っていることによって光が散乱するためです。
ハロー現象による光のにじみの見え方の例
引用:JSCR 日本白内障学会
- まぶしさの増加
光を強く感じることがあり、特に日中や強い光の下で不快感を感じやすくなります。 - 視界に霧がかかったような感覚
視界がぼやけて、まるで霧の中を見ているように感じることがあります。 - 視野の歪みや不明瞭な視界
一部の患者では視界の一部が歪んだり、不明瞭に見えることがあります。
白内障手術のあとでこれらの症状が現れた場合、後発白内障を疑うべきですが、他の眼疾患が原因である可能性もあるため、正しい診断が重要です。
診断方法
後発白内障の診断のために、眼科医によるいくつかの検査が行われます。最も一般的な診断方法は以下の通りです。
- 視力検査
視力が低下している場合、まずは視力検査が行われます。これにより視力がどの程度回復しているか、またどの程度低下したかが確認できます。 - 細隙灯検査(さいげきとうけんさ)
細隙灯検査は目の構造を非常に詳細に観察できる検査方法で、光を細く絞ったビーム(細隙灯)を目に当て、角膜、前房、虹彩、水晶体、網膜など、目の内部を調べます。細隙灯を使って、後嚢に曇りや薄膜が形成されているかどうかを確認します。薄膜が形成されると、光が散乱し、視力に影響を与えるため、曇り具合を目視で評価します。
さらに後嚢の曇りが進行すると、透明度が低くなり、白い雲のような形状が現れます。細隙灯検査を使って、この曇りがどの程度進行しているか、またその範囲が広がっているかを確認します。後嚢の曇りが全体に広がっているのか、部分的なのか、またそれが視力にどれほど影響しているかを評価します。 - 眼底検査(眼底検査装置による確認)
眼底検査では、眼の後ろの構造(網膜や視神経など)を観察します。後発白内障の場合、後嚢の曇り具合に応じて、眼底所見の解像度が悪くなります。 - 眼圧測定
後発白内障に関連して眼圧が上がることがあるため、眼圧を測定します。 - 前房深度検査(ぜんぼうしんどけんさ)
白内障手術後の目の状態を確認するため、前房深度(眼球の前の部分の深さ)を測定することもあります。これにより、後発白内障による影響がどのように視界に影響しているかを確認します。
4. 後発白内障の治療方法
後発白内障の治療方法は、主にレーザー治療です。その際「YAGレーザー(ヤグレーザー)」が使用されます。
このレーザー治療は外来診療で可能です。後発白内障で視力が低下している場合、YAGレーザー治療により、再度視力を改善することができます。YAGレーザーの詳細については後発白内障の治療などに用いられるYAGレーザーとはにて詳しく解説しておりますので、合わせてご覧ください。
YAGレーザー治療
後発白内障に最も一般的に行われる治療法です。YAGレーザーは「イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)」という結晶を使ったレーザーで、後嚢がくもった部分に精密に照射することができます。
治療の流れ
- 診察と準備
- まず、眼科医が診察を行います。
視力や眼圧のチェック、瞳孔を開いて、後嚢の状態を確認した後、治療を開始します。治療前には、眼に麻酔薬が点眼されます。麻酔は非常に軽いもので、痛みを感じることはほとんどありません。
- レーザー照射
点眼麻酔後、特殊な眼科用コンタクトレンズ(アブラハムレンズ)を眼球に装着します。
その後、エイミングビーム(治療部位にレーザーを正確に照射するための補助的な指標となる光)を照射します。
照射部位を決定後、YAGレーザーを後嚢に直接照射します。数十発のレーザー照射が行われることで、曇った後嚢の膜を破ることができることが多いです。状態により照射数は増減します。照射後、後嚢に小さな窓が開けられ、光が透過しやすくなり、視界が再びクリアになります。レーザーは高精度に照射されていれば、周囲の健康な部分には影響を与えませんが、ちょっとした動きで照射がずれるので慎重に行う必要があります。
- 治療後のケア
- 治療が終わった後は眼科医が観察が行い、問題がないことを確認します。治療後に目を安静に保つための指示が出ることもありますが、通常は特別な注意は必要ないことが多いです。
-
視力の回復 レーザー治療後、視力の回復は数時間から数日内に感じられることが多いです。治療当日に視力が改善されることもありますが、完全な回復には少し時間がかかることもあります。
YAGレーザー治療のメリット
-
- 非侵襲的
手術と違い目を切開する必要がありません。 - 迅速で痛みが少ない
治療自体はわずか数分で終わり、痛みはほとんど感じません。 - 高い効果
大部分の患者が視力の改善を実感でき、視界がクリアになります。 - 短い回復時間
治療後の回復が非常に早く、通常の生活にすぐに戻ることができます。
- 非侵襲的
YAGレーザー治療のリスクと副作用
YAGレーザー治療は一般的に安全ですが、まれに以下のような副作用が発生することがあります:
-
- 眼圧の上昇
一時的に眼圧が上昇することがあり、これは数日以内に自然に戻ることが多いですが、眼圧が高すぎると緑内障のリスクを高める可能性があります。 - 網膜剥離(もうまくはくり)
非常にまれですが、網膜剥離が発生することがあります。網膜剥離が起こると、視力に重大な影響を与えるため、迅速な治療が必要です。 - 視界のぼやけや光のにじみ
治療後すぐに一時的な視界のぼやけや光のにじみを感じることがありますが、通常は時間とともに改善します。 - 角膜浮腫(かくまくふしゅ)
ごくまれに、角膜(目の前面)が腫れることがあります。これも治療後の観察により適切に対処することができます。
- 眼圧の上昇
手術による治療
非常にまれなケースでは、YAGレーザー治療で十分な効果が得られない場合や、レーザー治療を受けられない場合には、再手術が必要になることがあります。眼内レンズが外れた、または他の理由で視力が低下した場合に手術が考慮されます。
手術によっては、人工レンズを再調整したり、再手術で後嚢を取り除いたりすることがあります。ただし、これは非常にまれなケースであり、大半の患者はYAGレーザー治療で問題が解決します。
-
5. 後発白内障の予後
後発白内障の予後(治療後の推移)は非常に良好です。多くの患者がYAGレーザー治療を受けた後、視力が回復し、生活の質が改善します。
治療の効果は高く、ほとんどの人が視力の改善を感じることができます。しかし、予後にはいくつかの要因が影響を与えるため、個々のケースによって異なることもあります。
YAGレーザー手術の予後の良い点
-
- 高い治療成功率
YAGレーザー治療は非常に効果的で、成功率は90%以上ともいわれています。ほとんどの患者は視力が回復し、術後の生活に大きな支障をきたすことはありません。 - 迅速な回復
治療後はほとんどの場合、視力が数時間から数日以内に回復します。多くの患者が治療当日に改善を実感することもあります。 - 低リスク
YAGレーザーは安全性が高く、リスクは非常に低いとされています。治療後の合併症が出ることはまれで、問題が発生しても早期に対処できます。 - 手術を必要としない場合が多い
大多数の患者は、YAGレーザー治療だけで視力が回復し、追加の手術を受ける必要はありません。患者にとって体への負担が少なく、生活の質が維持されます。
- 高い治療成功率
予後に悪影響を与える要因
予後に悪影響を与える要因としては、以下の点が挙げられます。
- 年齢
高齢者では後発白内障が発生しやすく、また、治療後の回復も若干遅れることがあります。ただし、高齢者でもYAGレーザー治療は効果的で、視力が回復することが多いです。 - 眼の状態
眼の他の疾患(例えば、緑内障や網膜疾患)がある場合、後発白内障の治療後に予後が複雑になることがあります。これらの疾患が視力回復に影響を与えることがあるため、治療を行う前にしっかりと検査を受けることが重要です。 - 眼圧の管理
治療後に眼圧が上昇することがあるため、これがコントロールできない場合は、視力の回復に影響を与える可能性があります。定期的に眼圧をチェックし、必要に応じて治療を行うことが大切です。 - 合併症の発生
まれに、YAGレーザー治療後に眼内で炎症が起こったり、網膜剥離などの重篤な合併症が発生したりすることがあります。しかし、これらの合併症は非常にまれで、ほとんどの患者は問題なく回復します。 - 再発の可能性
極めてまれではありますが、後発白内障が再発することもあります。再発した場合は、再度YAGレーザー治療を行うことができますが、これもまた多くの患者にとっては問題ありません。
長期的な予後
後発白内障は一度治療を受けると、通常はその後の視力が安定します。治療後の視力回復が持続するケースが多く、患者が再度視力低下を感じることはあまりありません。ただし、時間の経過とともに新たな眼の問題が発生する可能性はあるため、定期的な眼科の検診が推奨されます。
6. 後発白内障の予防と生活習慣
- 後発白内障は、白内障手術後に発生することがあり、完全に防ぐことは難しいですが、リスクを減少させるために日常的に注意できる生活習慣があります。また、予防的なケアや早期発見が重要です。
-
予防法
後発白内障を完全に予防することはできませんが、以下の点を意識することでリスクを減らすことができます。
- 白内障手術後の適切な管理
白内障手術後の管理は後発白内障の予防に大きく関わります。術後の定期的な検診を受けることが重要で、眼科医の指導に従って適切に経過観察を行うことで、後発白内障の早期発見が可能になります。 - 目の健康を守る
目の健康を保つためには、紫外線から目を守ることが非常に重要です。強い紫外線を長時間浴びることは目に悪影響を及ぼし、白内障のリスクを高めるため、外出時にはサングラスやUVカットの眼鏡を着用することをおすすめします。 - 健康的な生活習慣の維持
生活習慣の改善も後発白内障の予防に役立ちます。特に以下のような生活習慣を守ることが効果的です: - バランスの取れた食事:ビタミンA、C、Eなど、目に良い栄養素を含む食べ物(例えば、緑黄色野菜や果物)を摂取することが推奨されます。これらの栄養素は、目の健康をサポートし、白内障の予防にも寄与します。
- 適度な運動:運動は血流を促進し、目の健康にも良い影響を与えます。特にウォーキングやジョギングなどの軽い運動が効果的です。
- 禁煙:喫煙は白内障をはじめ、眼疾患のリスクを高める要因です。禁煙は後発白内障を含む目の健康につながります。
- 適切な体重管理:肥満や糖尿病は眼疾患のリスクを高めるため、健康的な体重を維持することが大切です。
- 目の休息と負担の軽減
長時間の読書や画面を見続けることは目に負担をかけ、眼精疲労を引き起こします。定期的に目を休めること(例えば、20分に1回目を休ませる)や、目を酷使しない環境を整えることが目の健康を守るために重要です。 - 早期の眼科受診
目に違和感を感じた場合や視力が低下した場合は、早期に眼科を受診することが大切です。後発白内障が進行する前に発見し、適切な治療を受けることで、視力の回復が可能になります。
生活習慣と目のケア
後発白内障が発症の予防というより、手術後のケアと健康的な生活習慣の維持が重要です。以下は、目の健康を維持するための具体的なアドバイスです:
- 定期的な目のチェック
白内障手術後は定期的な眼科の検診が推奨されます。これにより、後発白内障を早期に発見することができます。一般的には、手術後1年目、3年目、5年目といった周期で診察を受けることが多いです。 - 紫外線対策
紫外線は目にダメージを与え、白内障や後発白内障のリスクを高めます。UVカット機能付きのサングラスや帽子を使って紫外線から目を守りましょう。 - 目に良い栄養素を摂取
目に良い栄養素を多く含む食べ物を積極的に摂ることが大切です。特に、ビタミンCやE、ベータカロテン、亜鉛などが目に良いとされています。これらは抗酸化作用を持ち、目の健康をサポートします。 - 適切な休息と睡眠
目の疲れを取るために、十分な睡眠をとることや、長時間の作業を避けて目を休ませることが重要です。目を長時間使う場合は、定期的に休憩を取ることを心掛けましょう。 - 健康的なライフスタイル
健康な体作りも目の健康には欠かせません。運動や食生活、ストレス管理を意識することで、目の健康を保ち、後発白内障の予防につながります。
これらの生活習慣を心掛けることで、後発白内障のリスクを減少させ、健康的な視力の維持につながります。ただし、完全に予防することは難しいため、定期的な眼科のチェックと早期発見が重要です。