角膜トポグラフィーとは

2025.09.06

1. 角膜トポグラフィーとは

トポグラフィー

引用:白内障ポータルサイト

            • 目的:角膜の「局所曲率」や「屈折力」の分布を色の地図として可視化し、角膜の対称性・規則性を評価する。
            • 主な方式
              1.プラシドリング(反射法)…角膜(涙液面)に同心円を映し、その歪みから前面曲率を算出。高速・高精度・コンタクト適合にも強い。
              2.(参考)Scheimpflug/スキャンスリット/OCT…断層から前後面・角膜厚まで出せる=トモグラフィー。

2. どんな“地図”がある?(マップ種類と意味)

引用:NIDEK

※色は「暖色=急峻/屈折力が強い」「寒色=平坦/弱い」が一般的

2.1 曲率マップ(Curvature)

  • Axial(Sagittal):中心基準の“平均的”曲率。ノイズに強く、全体像を掴むのに良い。

Axial

  • Tangential(Instantaneous):局所曲率を鋭敏に表現。局所の異常・頂点偏位術後アブレーションの偏心を拾いやすい。

2.2 パワーマップ(Refractive/Power)

  • 曲率を屈折力(D)に換算。正乱視の規則性角膜全体の度数分布を直感的に把握。

2.3 標高マップ(Elevation)※本来はトモグラフィー寄り

  • 参照球(BFS)などからの高低差表示。前面のみの標高表示を搭載する機もあるが、後面標高はトモグラフィーで評価

2.4 角膜厚マップ(Pachymetry)※トモグラフィー

  • 中心と周辺の菲薄化パターンを評価(円錐・PELの鑑別、進行監視)。

3. 典型パターンの読み方(“見た瞬間”の判断軸)

    • Bow-tie(蝶ネクタイ):規則正しい左右対称 → 規則乱視。縦向き=with-the-rule、横向き=against-the-rule、斜め=斜乱視。
    • Inferior steepening(下方急峻化)円錐角膜疑い(I-S差↑、tangentialで鋭く)。
    • Crab-claw(蟹のはさみ):ペルーシッド辺縁角膜変性(PEL)を示唆(下方弧状)
    • Central island / Donut過矯正・アブレーション偏心やレンズ影響。
    • Irregular bow-tie & Apex decentration不正乱視、術後合併、瘢痕等。

ワンポイント
まずAxialで全体像Tangentialで局所→(可能なら)Elevation/Pachyで裏取りが実務的。

4. 指標とスコア(必要最低限)

    • SimK / 平均K:角膜中央付近の主経線屈折力。トーリックIOL概算の出発点。
    • SAI(Surface Asymmetry Index):左右対称性。
    • SRI(Surface Regularity Index):不正規性(高いほど不正乱視)。
    • I-S値(Inferior–Superior):上下面の屈折差(下方>上方で円錐疑い)。
    • SRAX(Skewed Radial Axis):放射軸の「ねじれ」。
    • Kmax:最急峻点(トモグラフィー機で用いられることが多い)。

機種・アルゴリズムでカットオフは異なるため、施設ごとの基準値表を装置別に用意して運用。

5. 臨床での使いどころ

  1. 屈折矯正術(LASIK/PRK/SMILE等)のスクリーニング

      • 対称性・頂点偏位・下方急峻化・不正乱視をチェック。
      • “怪しい”ときは必ずトモグラフィー(後面・厚み)で裏取り
  2. 円錐角膜/エクタジアの早期検出・進行判定

    • I-S、tangentialの局所急峻化、連続追跡の再現性が鍵。
  3. トーリックIOL計画

    • 前面シリンダー量と軸を把握(最終は“総合乱視”評価が望ましい=トモグラフィー併用)。
  4. コンタクトレンズ(RGP/オルソK)フィッティング

    • 曲率・頂点偏位でベースカーブ・ゾーン径・デザインを選択。
  5. 術後トラブルの原因検索

    • 偏心アブレーション/中央島/ドーナツなどを可視化し、追加矯正やCLでの補正方針へ。

6. 品質管理(QC)と撮影のコツ

    • 涙液面が命ドライアイやメニスカス破綻で輪帯がギザつく/欠損→再撮。人工涙液→30–60秒後に撮影。
    • ミレ(リング)中心合わせ:固視不良・瞬目・頭位傾斜で非対称アーチファクト。顎台・額当てで正位を固定。
    • 瞳孔径・照明:過度な照明で瞳孔縮小→有効視野が狭く
    • 色スケール:Absolute(固定)を基本。Normalized(自動)は見栄えが良いが実数比較に不向き
    • 再現性同一装置・同一プロトコル≥3回撮影の平均を習慣化。
    • ドライアイが視覚や生活の質に与える影響については、「ドライアイは見え方にも影響する(東京歯科大学)」という論文で詳しく紹介されています。

    7. よくある“落とし穴”

      • トポだけで後面は読めない:早期円錐やPELは後面突出・菲薄化を伴うことが多く、トモグラフィー併用が必須。
      • コンタクト直後の測定:形状記憶(molding)で偽の不正パターン。RGPは数日~2週の休止が安全目安(症例で調整)。
      • 角膜瘢痕・翼状片:局所反射の歪み→偽陽性。原画像(リング像)を必ず確認。
      • Normalizedスケールの罠:色の派手さで重症度を過大評価しがち。
      • 比較の一貫性機種が違う時系列比較は不可(指数も別物になりがち)。

    8. 外来運用テンプレ(チェックリスト)

    ① 前処置:点眼(必要時)、瞬目→30–60秒→固視練習
    ② 撮影:3枚以上・Absoluteスケール・中央合わせ
    ③ 迅速読影

      • Axial:左右対称? Bow-tie規則的? Apexは中心?
      • Tangential:局所の鋭い突出? 下方優位?
      • (可能なら)Elevation/Pachy:BFSからの突出、菲薄中心は?

      ④ 指標:SimK、SAI/SRI、I-S、(機器固有指数)
      ⑤ 方針

      • 正常範囲 → ルーチン説明
      • “疑い所見あり” → トモグラフィー/OCTで精査、経時追跡
      • 明らかな異常 → 追加検査(角膜形状・厚、眼圧補正、CL/手術歴の聴取)

    9. 患者向け説明(院内掲示用・短文)

    角膜の“丸みの分布”を色で描いた地図です。

    左右対称でなめらかなら良い状態。一部がとがる/傾くと、めがねやコンタクトが合いにくくなったり、手術適応の判断に影響します。

    検査は非接触で数十秒、まばたきや涙の状態で結果が変わることがあるため、何枚か撮って一番安定した画像を使います。