過矯正(Over-correction)― 1.5の視力が、必ずしも「正解」ではない理由 ―

2026.02.25

1. 「過矯正」の定義:人工的に作り出された遠視状態

一般的に「度が強い」と表現される過矯正ですが、光学的な本質は「近視矯正の過程で、網膜の後方に焦点を結んでしまう状態」を指します。

これは、近視という屈折異常を解消するどころか、医学的には「人工的な遠視(Artificial Hyperopia)」を作り出していることに他なりません。

遠くは極めて鮮明に見えますが、その代償として目は常に「ピント合わせ」を強制されることになります。

2. 生理学的メカニズム:毛様体筋の「ステルス・ハードワーク」

人間の目には、水晶体の厚みを変えてピントを調節する「調節力」が備わっています。

  • 正常な屈折状態: 遠くを見る時は、毛様体筋がリラックス(弛緩)した状態。
  • 過矯正の状態: 遠くを見る時でさえ、網膜の後ろにある焦点を前方に引き寄せるため、毛様体筋が収縮し続けなければなりません。

 

これは、いわば「一日の大半を、目の中の筋肉がフルマラソンしているような状態」です。

この持続的な緊張が自律神経に波及し、眼精疲労、頭痛、肩こり、さらには集中力の欠如といった不定愁訴(アステノピア)を誘発します。

実際に「強すぎるメガネ」がどのように眼精疲労を引き起こすのかについては、下記動画【その眼精疲労はメガネのせいかも!?激安メガネ店vs高級メガネ店の違いはあるのか?眼科医が説明します!】でも詳しく解説しています。

3. 現代社会における「最適視力」の再定義

かつて「視力は1.5あるのが理想」とされた時代は、主に屋外活動や遠方の監視が重要視されていました。

しかし、現代人の視生活の8割以上は「スマホ・PC・書類」といった近距離〜中距離(30cm〜1m)に集中しています。

過矯正の罠

 遠くを1.5に合わせると、近距離を見る際には「本来の調節力」+「過矯正分を補う調節力」という二重の負荷がかかります。

低矯正(アンダーコレクション)の戦略的選択

ライフスタイルによっては、あえて遠方の視力を0.7〜1.0程度に抑えることが、結果としてVDT作業(デスクワーク)時の疲労を最小限に抑え、QOL(生活の質)を高める「インテリジェンスな選択」となります。

4. 近視進行のパラドックス

近年の近視研究において、過矯正の眼鏡やコンタクトレンズの使用は、特に若年層において「近視の進行を加速させる一因」になり得ることが示唆されています。

網膜の後方に焦点がズレる(遠視性デフォーカス)状態を、眼球が「もっと後ろに伸びてピントを合わせよう」と適応してしまい、眼軸長(目の奥行き)が伸びてしまうためです。

5. クリニックが提供する「Precision Refraction(精密屈折検査)」

当院では、単なるオートレフ(自動計測)の数値に従うのではなく、以下のプロセスを通じて「その方の脳と体が最もリラックスできる度数」を導き出します。

  • 雲霧法(Fogging): 意図的にぼかしを入れ、介入する調節力をリセットする。
  • 両眼バランス検査: 左右の脳の認識を一致させ、両眼視機能を最適化する。
  • ライフスタイル・ヒアリング: 1日のうち、どの距離を最も長く見ているかをデータ化する。

 

まとめ 視力は「量」から「質」の時代へ

デジタルデバイスと共存する現代において、優れた視力矯正とは「どれだけ遠くが見えるか」ではなく、「どれだけ持続的に、ストレスなく見続けられるか」という視機能の質に集約されます。

数値としての視力に縛られず、ご自身の目にフィットした「真の適正度数」を見つけることが大切です。