偽樹枝状角膜炎(Pseudodendritic keratitis)

2026.02.27

これは、角膜上皮に木の枝のような線状の病変が生じるものの、単純ヘルペスウイルス(HSV)による「真の」樹枝状角膜炎とは異なる所見を示す状態を指します。

眼科臨床において、HSVとの正確な鑑別が非常に重要となる疾患です。

主な原因、鑑別点、および治療方針についてまとめました。

1. 主な原因

偽樹枝状病変は、特定のウイルスだけでなく、様々な物理的・化学的要因でも引き起こされます。

  • 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV) 眼部帯状疱疹に伴って発症する最も代表的な原因です。
  • アカントアメーバ角膜炎 感染の初期段階において、HSVに似た偽樹枝状病変を呈することがあります。
    詳しくは「アカントアメーバ角膜炎(Acanthamoeba keratitis)」をご覧ください。
  • 薬剤毒性: 抗ウイルス薬の頻回点眼や、防腐剤(BAKなど)を含む点眼薬による上皮障害。
  • 角膜上皮の治癒過程: 線状の角膜上皮剥離が治癒していく過程で、上皮細胞が盛り上がって樹枝状に見えることがあります。
  • コンタクトレンズ障害・重症のドライアイ

2. 真の樹枝状角膜炎(HSV)との鑑別点

単純ヘルペス(HSV)との鑑別は、細隙灯顕微鏡による形態の観察と染色検査が決め手となります。

観察項目

偽樹枝状角膜炎(主にVZVなど)

樹枝状角膜炎(単純ヘルペス:HSV)

病変の形態

上皮細胞が隆起している(Heaped-up)

中心部が潰瘍化し、掘れ込んでいる

先端の膨隆

(ターミナルバルブ)

なし(枝の先端が尖っている・細い)

あり(枝の先端が丸く水滴状に膨らむ)

フルオレセイン染色 

染まりにくい(全体的に淡く点状に染まる程度) 

潰瘍底(中心部)が鮮明に染色される

ローズベンガル染色

隆起した上皮全体がよく染まる

潰瘍の辺縁(ウイルスに感染した上皮)が染まる 

3. 主な症状

眼痛、充血、異物感、流涙、羞明(まぶしさ)、視力低下など、一般的な角膜炎と同様の症状が現れます。

VZVが原因の場合は、三叉神経第1枝領域の皮膚に皮疹や強い痛みを伴うことが多いです。

4. 治療方針

原因に応じた治療アプローチが必要です。HSVと誤診してステロイド点眼を単独使用すると、病態を悪化させるリスク(特にアカントアメーバの場合など)があるため注意が必要です。

VZVが原因の場合

アシクロビルバラシクロビルなどの抗ウイルス薬の全身投与(内服・点滴)が基本となります。角膜実質炎などを併発した場合は、抗ウイルス薬カバーのもとでステロイド点眼を慎重に使用することがあります。

アカントアメーバの場合

クロルヘキシジンなどの抗アメーバ薬の点眼と、病巣の擦過(掻爬)を行います。

薬剤毒性や上皮障害の場合

原因となっている点眼薬の中止、防腐剤無添加の人工涙液やヒアルロン酸点眼による角膜保護・保湿を行います。