白内障の「末期(成熟~過熟期)」は、水晶体(レンズ)の濁りが全体に及び、視力がほとんど失われた状態を指します。
ここでは医学的な観点から、どのように進行し、何が起こっているのかを詳しく説明します。
1. 白内障末期で起こる「水晶体の変化」
成熟白内障(mature cataract)
- 水晶体の全体が白く不透明になり、光をほとんど通さなくなります。
- 視力は「手の動きが分かる」「光を感じる」程度まで低下することがあります。
- レンズの核も皮質も完全に濁り、瞳孔(黒目の中心)が白く見える状態に。
過熟白内障(hypermature cataract)
- 水晶体のたんぱく質が液状化し、袋(嚢)の中でドロドロに溶ける。
- 水晶体の核が沈み、“ミルクのような白濁”として見える。
- 膨張・収縮により、眼圧の変動や炎症を起こす危険が高まる。
2.末期白内障の主な症状
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症状 |
説明 |
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視力の極端な低下 |
0.1以下、光の方向すらわからないこともある |
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瞳が白く見える |
他人が見ても「白い目」に見えるほどの濁り |
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光をまぶしく感じる |
濁りが乱反射して、光が痛いほどまぶしい |
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暗い所で何も見えない |
明暗の差に対応できず、夜間の生活が困難 |
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色の識別ができない |
すべてが黄色~茶色っぽく見える |
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物が二重・三重に見える |
水晶体の不均一な濁りによる屈折異常 |
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視界のちらつき・揺らぎ |
水晶体内部の液化による光散乱 |
3. 放置すると起こる合併症
続発性緑内障
- 濁った水晶体が膨張し、隅角を押し狭めて眼圧を上昇させる。
- 「痛い」「赤い」「吐き気がする」などの症状が出る。
- 急性緑内障発作として失明の危険もある。
ぶどう膜炎
- 溶けた水晶体成分が炎症を起こす。
- 水晶体融解性ぶどう膜炎(phacolytic uveitis)と呼ばれる状態。
- 激しい充血、痛み、視力消失を伴う。
手術が難しくなる
- 水晶体嚢が弱くなり、嚢破損や核落下のリスクが上がる。
- 手術時間が長引き、術後炎症・角膜浮腫のリスクも高い。
4. 患者の見え方シミュレーション
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進行段階 |
見え方の特徴 |
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初期 |
すりガラス越しに見るようなぼやけ |
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中期 |
黄色っぽく、光がにじむ |
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成熟期 |
白っぽく全体がかすむ、形が分かる程度 |
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過熟期 |
明暗しか分からない、全体が乳白色 |
5. 末期白内障における対応
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対応 |
内容 |
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早期の手術が基本 |
合併症が起こる前に手術を行うのが最善 |
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手術前検査の注意 |
角膜内皮細胞が減っていることが多く、機械設定や粘弾剤選択が重要 |
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手術時の配慮 |
水晶体皮質の液化や嚢破損に注意、ベテラン術者が担当すべき症例 |
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術後の経過観察 |
炎症や眼圧上昇に注意し、点眼管理を丁寧に |
6. 日常生活での注意点
- 明暗差のある場所を避ける。(段差・階段で転倒注意)
- 夜間の外出・運転は避ける。
- 眼鏡で矯正できないため、「治療で改善できる白内障」であることを理解することが大切。
まとめ
白内障の末期は「視力が落ちるだけでなく、眼球全体に悪影響を及ぼす状態」。
ここまで進行すると、合併症を起こす前に早急な手術が必要です。
白内障を放置した結果、水晶体が溶け出して急激に見えなくなったという実際の症例もあります。その経過や、先延ばしによって起こりうるリスクについては、下記動画で医師が詳しく解説しています。






















