白内障手術で両目の眼内レンズ度数をそろえるべき理由(立体視機能と斜視の可能性について)

白内障手術では、左右の眼内レンズの度数を同じか近いものにそろえるのが一般的です。これは、立体視(奥行きを感じる力)を保ち、斜視などの目のずれを防ぐためです。
両目のバランスが崩れると、日常生活にさまざまな問題が生じる可能性があります。

1.立体視機能(ステレオ視)とは?

立体視(りったいし)とは、両目で少し異なる角度から物を見ることで、距離感や奥行きを感じる能力のことです。

立体視(りったいし)とは、両目で少し異なる角度から物を見ることで、距離感や奥行きを感じる能力のことです

引用:なるほど3D

  • 片目だけでは得られない「3Dの見え方」を両目で作り出す
    例:階段の段差や、遠くと近くの物の違いを正確に把握する。
  • 正常な立体視には、両目のピント(度数)がほぼ同じであることが重要

立体視のメカニズム

  • 左右の目は、それぞれ視野が少し異なる「2つの映像」を脳に送ります
  • 脳はその情報を統合し、距離や立体的な形を把握します。

立体視にはこの2つのステップが必要です。しかし、両目の視力やピントが合わないと、統合が難しくなり、距離感がつかみにくくなるのです。

 

2.度数の差が大きいとどうなる?

白内障手術で片目だけが遠く用、もう片目が近く用など、度数に大きな差をつけると、次のような問題が発生します。

  1. 奥行きがわからない(立体視が困難)
    • 例えば、階段を降りるときに段差の距離が正確にわからず、つまずきやすくなる。
    • 車の運転時に、前の車までの距離感がつかみにくくなる。
  2. 複視(物が二重に見える)
    • 両目のピントがずれているため、1つの物が2つに見えることがあります。
    • 長時間の作業(読書やパソコン作業)で目が疲れやすくなります。
  3. 遠近の切り替えが遅くなる
    •片目が遠く、もう片目が近くにピントが合う状態だと、脳が情報処理に時間を要し、素早く焦点を合わせるのが難しくなる。

度数が合わないと斜視になる可能性

斜視(しゃし)とは、片方の目が違う方向を向いてしまう状態のことです。

外斜視と内斜視

引用:日本眼科学会

白内障手術後、左右の度数に差があると、脳が「どちらの目を優先的に使うか」を選択し、片方の目が使われにくくなることがあります。その結果、使われない目の視線がずれ、斜視になる可能性があるのです。

斜視が起こる理由

  1. 不同視(ふどうし)による脳の適応
    • 片目の度数が大きく異なると、ピントの合いやすい方ばかりを使い、もう片方の目を使わなくなる。
    • 使われなくなった目が外側や内側にずれてしまい、斜視になる可能性がある。
  2. 調節機能の乱れ
    目のピント調節を左右同時に行えないためずれが生じる。これにより寄り目や外斜視などの症状が現れる。
  3. 手術後の適応が難しい高齢者
    加齢によって脳の適応力が低下し、左右の視力差にうまく対応できず、斜視が発生することがある。
    例:右目が遠く用、左目が近く用に設定された場合、右目ばかりを使うようになり、左目の視線が内側に寄ってしまう。

3.斜視や立体視の問題を防ぐための対策

 

白内障手術後、以下の方法で目のバランスを整えることが大切です。

  1. 両目の度数をそろえる(基本の対策)
    • 同程度のレンズを選ぶことで、立体視機能を維持し、斜視のリスクを低くする。
    • 眼科医と相談し、その人の日常生活に適した適切な度数を決定する。
  2. 段階的な手術(片目ずつ手術)
    片目を手術した後、適応状況を確認して、もう片方の目の度数を決める。これにより、必要に応じて微調整が可能。
  3. モノビジョンにする場合の適応テスト
    • もし片目ずつ異なる度数(モノビジョン)を希望する場合、手術前にコンタクトレンズを使って体験し、適応できるか確認する。
    • 適応できない場合は、両目同じ度数に変更する。
  4. 手術後の視能訓練
    眼科でのリハビリや自宅での両目を使う訓練(遠くと近くを交互に見るなど)を行い、目の協調性を高めることは斜視予防に役立つ。

4.まとめ:度数をそろえる重要性

 

眼内レンズの度数を同じにすることが推奨される理由は以下の3点です。

  1. 立体視機能を保ち、距離感や奥行きを正確に感じるため。
  2. 不同視による斜視や目の疲れを防ぐため。
  3. 手術後の快適な見え方を維持し、脳が適応しやすくするため。

特に、高齢者や長年メガネを使っていた人は、左右のバランスが崩れると、生活の質(QOL)が低下する可能性があるため、慎重なレンズ度数の決定が重要です。

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