糖尿病網膜症は、糖尿病の長期的な合併症のひとつで、目の奥にある「網膜（もうまく）」の血管に異常が起き、視力に大きな影響を及ぼす病気です。進行すると、失明の原因にもなり得ます。

糖尿病の診断を受けてすぐに網膜症が現れることはまれで、数年～10年以上かけて徐々に進行するため、自覚症状がないうちに重症化してしまうケースも少なくありません。

網膜の役割と、網膜はなぜ傷つくのか

網膜は、カメラで言えば「フィルム」のような役割を果たしており、光を感じ取って脳に映像を伝える大切な組織です。糖尿病によって血糖値が長期間高い状態が続くと、網膜内の細い血管が徐々にダメージを受け、出血や浮腫（むくみ）、血管の閉塞などが起こるようになります。

糖尿病網膜症の進行段階

糖尿病網膜症は、進行の程度に応じて以下の3つの病期に分けられます。

① 単純糖尿病網膜症（初期段階）

網膜の毛細血管がもろくなり、小さな出血（点状出血）や、毛細血管瘤（けっかんりゅう）と呼ばれる膨らみができます。多くの場合、視力に影響はありませんが、早期に見つけて経過観察・生活改善を行うことが重要です。

② 前増殖糖尿病網膜症（中期）

血管の閉塞が進み、網膜への酸素供給が不足することで、「無血管領域」と呼ばれる酸素不足の部分が生まれます。これにより、異常な新しい血管（新生血管）が作られる準備段階に入ります。視力への影響が出ることもあります。

③ 増殖糖尿病網膜症（後期）

酸素不足を補おうと新生血管が作られますが、これらの血管は非常にもろく、破れやすいため、大量の出血（硝子体出血）を起こす可能性があります。また、網膜剥離や血管新生緑内障など、重篤な状態へ進行することもあります。視力低下や失明リスクが高くなります。

HbA1cとの関係

HbA1c（ヘモグロビンA1c）は、過去1〜2か月間の平均血糖値を反映する数値で、糖尿病のコントロール状態を表す指標です。この数値が高い状態が続くほど、網膜症を含む糖尿病合併症のリスクが高まります。

目安として、HbA1cが7.0%未満であれば比較的安定した血糖コントロールとされますが、個人差がありますので、主治医と相談しながら目標値を設定することが大切です。

糖尿病の「三大合併症」としての網膜症

糖尿病網膜症は、以下の「糖尿病三大合併症」の一つに数えられます：

1. • 糖尿病網膜症（目）
   • 糖尿病腎症（腎臓）
   • 糖尿病神経障害（末梢神経）
2. これらの合併症は、血管にダメージを与えることで発症し、実際には同時に進行することが多くあります。たとえば、網膜症が見つかった時点で、すでに腎臓や神経にも障害が出ているケースも少なくありません。

糖尿病腎症から透析へ

糖尿病腎症は、腎臓の働きが徐々に悪くなる病気です。初期には蛋白尿（たんぱくにょう）が出る程度ですが、進行すると老廃物が排出できなくなり、腎不全の状態になります。最終的に人工透析が必要になることもあります。

透析が必要になる頃には、網膜症もかなり進行しているケースが多く、視力にも大きな影響が出ている可能性があります。

自覚症状がなくても、定期的な眼科受診を

糖尿病網膜症は、初期にはまったく自覚症状がないため、「見えているから大丈夫」と放置してしまうことが一番の落とし穴です。見えにくさを感じたときには、すでに進行していることが多いため、糖尿病と診断されたら、たとえ症状がなくても年に1回は眼科での定期検査を受けましょう。

糖尿病網膜症と当院での精密検査について

当院では、糖尿病患者さんの目の健康を守るために、精密機器と迅速な検査体制を整えています。

広角眼底カメラ「Optos（オプトス）」を導入

通常の眼底カメラでは、瞳孔を開く（散瞳）必要があり、検査後しばらくまぶしさや見えにくさが続くことがあります。
このような患者さんへの負担を軽減、正確な診断のため当院では、広角眼底撮影装置「Optos（オプトス）」を導入しております。

• 瞳孔を開かずに
• 約200度という広い範囲の網膜を
• 短時間で一度に撮影

することが可能です。これにより、早期の異常発見が可能となり、検査の負担も最小限に抑えられます。

OCT（光干渉断層計）での精密な網膜検査

糖尿病網膜症の合併症のひとつである「糖尿病黄斑浮腫」は、視力低下の大きな原因です。
黄斑は「見る力の中心」であるため、ここにむくみ（浮腫）が生じると、ものが歪んで見えたり、ぼやけたりします。

当院ではOCT（光干渉断層計）を用いて、網膜をミクロン単位でスキャンし、断層画像として詳細に観察しています。

• 黄斑浮腫のごく初期の段階での発見が可能

• 治療前後の経過を精密に評価できる

というメリットがあります。視力の変化が少ない段階でも、OCTによる検査で異常をとらえることができます。

HbA1cの即時測定が可能です

糖尿病網膜症の進行リスクは、血糖のコントロール状態と深く関係しています。特にHbA1c（ヘモグロビンA1c）は、過去1〜2か月の血糖の平均を反映する重要な指標です。

当院では、HbA1cの即時測定が可能な機器を導入しており、検査当日にその場で結果がわかります。

これにより、眼の状態と血糖コントロールの関連をすぐに確認、内科との連携や今後の治療方針の相談もスムーズに実施することができます。

江坂まつおか眼科でのトータルケア

糖尿病網膜症は、初期には自覚症状がほとんどありません。気づいた時にはすでに進行していることもあります。だからこそ、定期的な眼底検査とOCTによる精密な観察がとても大切です。

当院では、

• • 瞳を開かずに行えるOptos眼底撮影
  • 断層で観察できるOCT検査
  • その場で結果がわかるHbA1c即時測定
• など、患者さんの負担を少なく、かつ的確に診断・経過観察ができる体制を整えています。

糖尿病と診断された方、あるいは長年糖尿病をお持ちの方は、ぜひ一度ご自身の目の状態をチェックしてみてください。

目に関するお悩みがあれば、いつでも江坂まつおか眼科へお気軽にご相談ください。