目次
恒常性・間欠性・潜伏性斜視(患者さん向け)
斜視ってなに?
左右の目が同じ場所を見ておらず、片方の目が内側・外側・上下にずれる状態です。ずれ方や出方に種類があります。
1) 恒常性斜視
2) 間欠性斜視
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- 普段はまっすぐ見えるけれど、疲れたとき・遠くをボーッと見たときなどに時々ずれるタイプ。
- ずれたときに二重に見えたり、目が疲れたりします。
- 治療:経過観察、視能訓練、プリズム眼鏡、頻度やズレが大きく生活に支障があれば手術。
3) 潜伏性斜視(隠れ斜視)
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- 普段は両目の力でまっすぐ保てていますが、片目を隠すとずれが現れます。
- 目をたくさん使ったあとに頭痛・肩こり・眼精疲労が出ることがあります。
- 治療:症状がなければ様子見。つらい場合はプリズム眼鏡や訓練。
ご家庭で気づくサイン
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- 写真で片方の黒目の反射(光のキラッ)がずれている
- 片目を隠すと強く嫌がる/泣く(特に子ども)
- すぐ顔を傾ける、片目をつぶる
→ ひとつでも心当たりがあれば、早めの眼科受診がおすすめです。
よくある質問
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治るの?
早期に適切な治療をすれば、見え方・目の協調の改善が期待できます。
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大人でも手術できる?
はい。美容面・機能面の改善を目指して手術を行うことがあります。
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スマホが原因?
スマホ自体が直接の原因ではありませんが、疲れが出ると間欠性・潜伏性の症状が出やすくなります。
受診のめやす
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- ずれが常に見える/写真でもはっきり分かる
- 二重に見える、頭痛や疲れが続く
- 子どもで片目を使いたがらない/視力が伸びない など
医療従事者向け:専門的整理
用語・概念
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- Tropia(恒常性/間欠性斜視):遮閉なしでも顕在化する眼位ずれ。
- Phoria(潜伏性斜視):融像下では潜在、遮閉で顕在化。
- Decompensation:潜伏性が症候化して複視/眼精疲労を呈する状態。
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検査の軸
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- Cover-uncover / Alternate cover test(近見・遠見)
- Prism cover test(水平・垂直、A/V・α/γパターン確認)
- Hirschberg / Krimsky(乳幼児)
- Stereoacuity(Titmus/Randot/TNO)
- AC/A比、+3D/-2Dレンズテスト、patch test(divergence excess評価)
- Vergence/Accommodation機能:Maddox rod、NPC、振幅、施設
- Refraction(調節性要素、不同視・乱視)
- 神経学的red flags(急性複視、眼筋麻痺、神経症状合併)
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各種検査は臨床現場で次のように行われます。 ▶ Cover test(検査動画を見る:medicalonline.jp)
1) 恒常性斜視(constant tropia)
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- 病態:持続的偏位。小児では抑制・異常対応(ARC)→複視を訴えにくい。
- 代表:乳児内斜視、調節性/部分調節性内斜視、感覚性斜視、麻痺性斜視の陳旧化。
- 対応
弱視管理:最優先(遮閉、適正屈折矯正)。
手術:年齢・偏位量・両眼視予後を総合的に判断。
内斜視:両側内直筋後転、片側後転+外直筋短縮 など。
乳児内斜視は早期手術が両眼視獲得に寄与。
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2) 間欠性斜視(intermittent tropia)—とくに間欠性外斜視
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- 特徴:正位と偏位を行き来。コントロールの評価が重要(臨床観察、家庭での頻度、簡易スコア)。
- タイプ
Basic、Divergence excess(true vs simulated)、Convergence insufficiency。 - 悪化サイン:コントロール低下、偏位量増大、近見立体視低下、症候性増悪。
- 保存的:屈折矯正、遮閉療法(選択例)、視能訓練(近見融像fusional reserves強化)、プリズム(一時的/症候緩和)。
- 手術適応の目安
日常の崩壊頻度の増加、立体視の劣化、20–25Δ以上で機能・整容の支障が強い場合など。 - 術式:両側外直筋後転 or 片側R&R。divergence excessは遠近差評価・術量調整。
3) 潜伏性斜視(heterophoria)
鑑別・注意
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- 急性発症の恒常性複視(成人):脳神経麻痺、甲状腺眼症、重症筋無力症、眼窩疾患、微小血管障害などを鑑別。必要に応じ画像/血液/神経内科連携。
- 感覚性斜視:片眼の視力低下原因(白内障・網膜疾患)精査が先行。
- A/Vパターン、斜筋過機能:術式選択・量に影響。
外来でのミニ・アルゴリズム
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- 病歴:発症様式、頻度、複視の有無、疲労関連、既往。
- 視力・屈折:完全屈折矯正下で評価。
- 眼位検査:近見/遠見のCT/ACT + PCT、コントロール、立体視。
- 分類:恒常性/間欠性/潜伏性、タイプ細分類。
- 治療計画:
弱視管理 → 保存(矯正・訓練・プリズム) → 手術適応検討。
成人急性例は二次性の除外を優先。
記載テンプレ(例)
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- 診断:間欠性外斜視(Basic)、偏位量 25Δ(遠見)、近見立体視低下。
- 所見:ACT遠見25ΔXT、近見18ΔXT、コントロール不良、AC/A正常。
- 方針:完全矯正、訓練+経過。増悪時は両側LR後転を検討。
比較早見表(臨床の要点)
区分 |
恒常性斜視 |
間欠性斜視 |
潜伏性斜視 |
顕在化 |
常時 |
疲労・遠見などで時々 |
遮閉で顕在化 |
主訴 |
小児は少症状/整容、成人は複視あり得る |
間欠性複視・疲労 |
眼精疲労・頭痛 |
立体視 |
低下しやすい |
変動 |
通常保たれるが症候化で低下 |
主要検査 |
CT/ACT、PCT、屈折、弱視評価 |
CT/ACT(遠近差・コントロール)、Stereo、AC/A |
Maddox、Vergence予備、Stereo |
主な対応 |
弱視治療+手術 |
保存(矯正・訓練・プリズム)〜手術 |
矯正・プリズム・訓練 |
斜視の概要を知りたい方は、左右で目の向きが違う斜視をご参照ください。