斜視の3つのタイプ

2025.09.05

恒常性・間欠性・潜伏性斜視(患者さん向け)

斜視ってなに?

斜視について

左右の目が同じ場所を見ておらず、片方の目が内側・外側・上下にずれる状態です。ずれ方や出方に種類があります。

1) 恒常性斜視
    • いつも目の位置がずれているタイプ。
    • 脳が“ずれている目”の映像を弱めてしまい(抑制)、二重に見えにくいことも。
    • 放っておくと弱視(視力の発達が遅れる)につながることがあります。
    • 治療メガネ、アイパッチ(遮閉)などの弱視治療、必要に応じて手術。
2) 間欠性斜視
    • 普段はまっすぐ見えるけれど、疲れたとき・遠くをボーッと見たときなどに時々ずれるタイプ。
    • ずれたときに二重に見えたり、目が疲れたりします。
    • 治療:経過観察、視能訓練、プリズム眼鏡、頻度やズレが大きく生活に支障があれば手術。
3) 潜伏性斜視(隠れ斜視)
    • 普段は両目の力でまっすぐ保てていますが、片目を隠すとずれが現れます。
    • 目をたくさん使ったあとに頭痛・肩こり・眼精疲労が出ることがあります。
    • 治療:症状がなければ様子見。つらい場合はプリズム眼鏡や訓練。

ご家庭で気づくサイン

    • 写真で片方の黒目の反射(光のキラッ)がずれている
    • 片目を隠すと強く嫌がる/泣く(特に子ども)
    • すぐ顔を傾ける、片目をつぶる
      → ひとつでも心当たりがあれば、早めの眼科受診がおすすめです。

よくある質問

  • 治るの?

    早期に適切な治療をすれば、見え方・目の協調の改善が期待できます。

  • 大人でも手術できる?

    はい。美容面・機能面の改善を目指して手術を行うことがあります。

  • スマホが原因?

    スマホ自体が直接の原因ではありませんが、疲れが出ると間欠性・潜伏性の症状が出やすくなります。

受診のめやす

    • ずれが常に見える/写真でもはっきり分かる
    • 二重に見える、頭痛や疲れが続く
    • 子どもで片目を使いたがらない/視力が伸びない など

医療従事者向け:専門的整理

用語・概念

      • Tropia(恒常性/間欠性斜視):遮閉なしでも顕在化する眼位ずれ。
      • Phoria(潜伏性斜視):融像下では潜在、遮閉で顕在化。
    • Decompensation:潜伏性が症候化して複視/眼精疲労を呈する状態。

検査の軸

      • Cover-uncover / Alternate cover test(近見・遠見)
      • Prism cover test(水平・垂直、A/V・α/γパターン確認)
      • Hirschberg / Krimsky(乳幼児)
      • Stereoacuity(Titmus/Randot/TNO)
      • AC/A比、+3D/-2Dレンズテスト、patch test(divergence excess評価)
      • Vergence/Accommodation機能:Maddox rod、NPC、振幅、施設
      • Refraction(調節性要素、不同視・乱視)
      • 神経学的red flags(急性複視、眼筋麻痺、神経症状合併)

各種検査は臨床現場で次のように行われます。 ▶ Cover test(検査動画を見る:medicalonline.jp)

1) 恒常性斜視(constant tropia)

      • 病態:持続的偏位。小児では抑制・異常対応(ARC)→複視を訴えにくい。
      • 代表:乳児内斜視、調節性/部分調節性内斜視、感覚性斜視、麻痺性斜視の陳旧化。
      • 対応
        弱視管理:最優先(遮閉、適正屈折矯正)。
        手術:年齢・偏位量・両眼視予後を総合的に判断。
         内斜視:両側内直筋後転、片側後転+外直筋短縮 など。
        乳児内斜視は早期手術が両眼視獲得に寄与。

2) 間欠性斜視(intermittent tropia)—とくに間欠性外斜視

    • 特徴:正位と偏位を行き来。コントロールの評価が重要(臨床観察、家庭での頻度、簡易スコア)。
    • タイプ
      Basic、Divergence excess(true vs simulated)、Convergence insufficiency。
    • 悪化サイン:コントロール低下、偏位量増大、近見立体視低下、症候性増悪。
    • 保存的:屈折矯正、遮閉療法(選択例)、視能訓練(近見融像fusional reserves強化)、プリズム(一時的/症候緩和)。
    • 手術適応の目安
      日常の崩壊頻度の増加立体視の劣化20–25Δ以上で機能・整容の支障が強い場合など。
    • 術式:両側外直筋後転 or 片側R&R。divergence excessは遠近差評価・術量調整。

3) 潜伏性斜視(heterophoria)

    • 病態:融像で補償される偏位。Sheard/Percival基準を参考に、予備融像幅不足で症候化。
    • 症状:眼精疲労、頭痛、読書困難、間欠性複視。
    • 対応
      屈折矯正の最適化(遠視・不同視・乱視の補正)。
      プリズム処方:Sheard基準(Exoに対しBIプリズム)や症状ベースで少量から。
      視能訓練:Vergence/Accommodative facility増強。
      生活指導:近業の中断、作業距離、ドライアイ対策等。

鑑別・注意

    • 急性発症の恒常性複視(成人):脳神経麻痺、甲状腺眼症、重症筋無力症、眼窩疾患、微小血管障害などを鑑別。必要に応じ画像/血液/神経内科連携
    • 感覚性斜視:片眼の視力低下原因(白内障・網膜疾患)精査が先行。
    • A/Vパターン、斜筋過機能:術式選択・量に影響。

外来でのミニ・アルゴリズム

    • 病歴:発症様式、頻度、複視の有無、疲労関連、既往。
    • 視力・屈折:完全屈折矯正下で評価。
    • 眼位検査:近見/遠見のCT/ACT + PCT、コントロール、立体視。
    • 分類:恒常性/間欠性/潜伏性、タイプ細分類。
    • 治療計画
      弱視管理 → 保存(矯正・訓練・プリズム) → 手術適応検討。
      成人急性例は二次性の除外を優先。

記載テンプレ(例)

    • 診断:間欠性外斜視(Basic)、偏位量 25Δ(遠見)、近見立体視低下。
    • 所見:ACT遠見25ΔXT、近見18ΔXT、コントロール不良、AC/A正常。
    • 方針:完全矯正、訓練+経過。増悪時は両側LR後転を検討。

比較早見表(臨床の要点)

区分

恒常性斜視

間欠性斜視

潜伏性斜視

顕在化

常時

疲労・遠見などで時々

遮閉で顕在化

主訴

小児は少症状/整容、成人は複視あり得る 

間欠性複視・疲労

眼精疲労・頭痛

立体視

低下しやすい

変動

通常保たれるが症候化で低下

主要検査 

CT/ACT、PCT、屈折、弱視評価

CT/ACT(遠近差・コントロール)、Stereo、AC/A 

Maddox、Vergence予備、Stereo 

主な対応

弱視治療+手術

保存(矯正・訓練・プリズム)〜手術

矯正・プリズム・訓練

 

斜視の概要を知りたい方は、左右で目の向きが違う斜視をご参照ください。