暗くて見えない ― 老化?それとも病気?

2025.10.22

「最近、夜になると見えにくい」「薄暗い店でメニューが読みにくい」―そんな経験はありませんか?

年齢を重ねると、誰でも少しずつ“暗さに弱くなる”ものです。
しかし、その中には白内障網膜の病気網膜色素変性症など)が隠れている場合もあります。

このコラムでは、「暗くて見えない」状態が起こるしくみと、加齢による変化、そして注意すべき病気について詳しく解説します。

暗いところで見えるしくみ ― 桿体細胞と暗順応

人間の網膜には、光を感じる「視細胞」が2種類あります。

視細胞の種類

主な働き

錐体(すいたい)細胞 

明るい場所で色や形を認識

桿体(かんたい)細胞

暗い場所でわずかな光を感じ取る 

暗い場所では、桿体細胞が中心となって働きます。
この桿体細胞の中では、ロドプシン(視紫紅)という光受容タンパク質が活性化し、光を感じ取る能力が高まります。

明るい所から暗い所へ移動したとき、目が慣れてくる現象を「暗順応」と呼びます。
この暗順応がうまく働かないと、暗い場所での見え方が極端に悪くなります。

加齢による“暗順応の低下”

年齢とともに、暗いところが見えにくくなるのは自然な変化です。
原因は複数あります。

① 桿体細胞の機能低下

加齢により桿体細胞の数や感度が低下し、光への反応が鈍くなります。
「暗い所に慣れるまで時間がかかる」と感じるのはこのためです。

② 瞳孔の反応低下

暗い場所では瞳孔(黒目の穴)が広がり、より多くの光を取り込みます。
しかし年齢とともに瞳孔が開きにくくなり、網膜に届く光の量が減少します。

③ 水晶体の黄変・白内障の初期変化

水晶体は年齢とともに黄色く濁り始めます。
光の通りが悪くなり、暗い場所ではコントラストが低下して見えにくくなります。

👉 この段階で「夜の運転でまぶしい」「映画館で見えづらい」などの訴えが多くなります。

病気が原因の“暗さに弱い” ― 夜盲と網膜疾患

暗所視力の低下が年齢以上に強い、あるいは片目だけなどの場合、次のような病気が隠れている可能性があります。

1. 鳥目(ビタミンA欠乏性夜盲)

昔から「鳥目」と呼ばれる状態で、桿体細胞の働きに必要なビタミンAが不足して起こります。

主な原因
    • 偏食・極端なダイエット
    • 肝機能障害(ビタミンAを蓄える力の低下)
    • 消化吸収障害(脂肪吸収不良など)
症状
    • 暗いところで見えにくい(昼は比較的見える)
    • 慢性的なドライアイを伴うことも

治療はビタミンAの補給で改善する場合が多く、早期発見すれば後遺症なく回復します。

2. 網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa)

遺伝的に網膜の視細胞(特に桿体細胞)が徐々に失われていく病気です。
日本では約5,000〜1万人に1人の頻度でみられると言われています。

特徴的な症状
    • 夜になると極端に見えづらい(夜盲)
    • 周囲が見えにくくなる(視野狭窄)
    • 光がまぶしく感じる(羞明)

初期には「暗い所が苦手」というだけですが、進行するとトンネルのように視野が狭くなり、最終的に中心視も障害されます。

残念ながら根本的な治療法はまだ確立されていませんが、

  • ビタミンA・D補給の研究
  • 遺伝子治療(一部の型で臨床応用)
  • ロービジョンケア(見え方を補う訓練)
    などが進められています。

    3. その他の疾患

      • 白内障:光の通りが悪く、暗所でコントラストが落ちる
      • 糖尿病網膜症:網膜の血流障害により感度が低下
      • 黄斑疾患:暗所だけでなく明暗の差に順応しづらい

    検査と診断

    眼科では、次のような検査で原因を調べます。

    検査名

    内容

    眼底検査

    網膜や視神経の状態を直接観察 

    OCT(光干渉断層計) 

    網膜の構造を3次元的に解析

    暗順応検査

    明→暗への順応速度を測定

    視野検査

    視野の広がりや欠損を確認

    予防とセルフケア

      • 夜間は十分な照明を確保する
      • スマートフォンやLEDライトの強い光を急に見るのを避ける
      • 緑黄色野菜・レバー・卵黄などビタミンAを含む食事を意識する
      • 定期的な眼科健診で白内障・網膜疾患の早期発見を

    コメント

    「暗くて見えない」は、誰にでも起こる加齢変化の一つですが、中には治療が必要な病気の初期サインが隠れていることもあります。
    夜間の見づらさ、まぶしさ、視野の狭さを感じたら、ぜひ一度、専門的な検査を受けてください。

    江坂まつおか眼科では、OCT・眼底カメラ・視野検査などを用いて網膜や水晶体の状態を詳細に解析し、それぞれの原因に応じた治療・生活アドバイスを行っています。

    まとめ

    原因

    特徴

    対応

    加齢

    桿体の感度低下、瞳孔反応の鈍化 

    照明改善、定期検診

    白内障

    光が通りにくい・まぶしい

    手術で改善可能

    鳥目(ビタミンA欠乏)

    栄養不足による夜盲

    食事・サプリで回復 

    網膜色素変性症

    夜盲+視野狭窄

    早期診断と進行抑制

    黄斑疾患・糖尿病網膜症 

    視野の歪み・感度低下

    眼科での治療管理

    🕯 最後に

    暗いところで見えない――それは老化のサインであると同時に、病気のサインでもあります。
    自分の目の「暗順応力」を軽視せず、年齢とともに変化する“光の感じ方”を定期的にチェックしましょう。

    老眼かどうかチェック法や目薬の選び方は、下記動画で詳しく解説しています。