術中視神経虚血(ION:Intraoperative Optic Neuropathy)

2026.05.20

眼科手術以外の全身手術(特に長時間に及ぶ脊椎手術や心臓手術など)の最中や直後に発生する、深刻な視力障害を指します。

1. 病態の分類

術中視神経虚血は、主に以下の2つのパターンに分類されます。

引用:医學事始

前部虚血性視神経症 (AION)

視神経乳頭部分の血流障害。眼底検査で乳頭浮腫が確認されます。

後部虚血性視神経症 (PION)

篩状板(しじょうばん)より後方の視神経の血流障害。初期の眼底は正常に見えるため、診断が遅れるリスクがあります。術中視神経虚血の多くはこのPIONであると言われています。

2. 主な原因とリスク要因

複数の要因が組み合わさって、視神経への酸素供給が需要を下回ることで発症します。

手術側の要因

  • 長時間の伏臥位(うつ伏せ): 顔面への直接圧迫がなくても、眼窩静脈圧(がんかじょうみゃくそう)の上昇を招き、灌流圧(かんりゅうあつ)を低下させます。
  • 大量出血・低血圧: 全身の血圧低下により、視神経への血流が維持できなくなります。
  • 過剰な輸液: 組織の浮腫を引き起こし、眼窩内圧を上昇させる可能性があります。
  • 手術時間: 一般に6時間以上の手術でリスクが有意に高まるとされています。

患者側の要因

  • 高血圧、糖尿病、喫煙、肥満などの動脈硬化リスク。
  • 貧血(血液の酸素運搬能力の低下)。

IONのリスク要因のひとつである糖尿病は、網膜の血管にも慢性的なダメージを与え、視力低下や失明につながる合併症を引き起こします。糖尿病と目の関係について詳しくは、糖尿病網膜症 もあわせてご参照ください。

3. 症状と診断

症状

術後目覚めた直後からの、片眼または両眼の急激な視力低下や視野欠損。痛みは通常伴いません。

診断

瞳孔反応(対光反射)の消失やRAPD(求心性瞳孔反応欠損)の確認が重要です。PIONの場合、初期の眼底検査では異常が見られないため、MRI等で他の原因(脳梗塞など)を除外する必要があります。

4. 予防と対応

残念ながら、一度発症したIONに対して確立された有効な治療法(特効薬)は現在のところありません。そのため、予防が極めて重要です。

  • 頭位の管理: 頭部を心臓より高く保つ、または水平に保ち、眼球への圧迫を避ける。
  • 血圧・貧血の管理: 術中の適切な血圧維持と、必要に応じた輸血。
  • 時間の意識: 手術時間の短縮や、途中で体位を変えるなどの検討。